■Wizard
Abd al-Hazir著

 極悪な目的に魔法を使う者たちに対する私の我慢の無さについては、自然科学についての見地から魔法の行使を嫌っているためだと多くの人が考えている。実の所、それは的を射ていない。私の文句は、魔術師(Sourcerer)たちが一千年に渡って権限と法規への敬意を維持するために積み上げた、研ぎ澄まされた古代の慣例と教訓を却下しようとするような者たちに対するものである。

 最近、Caldeumの若者たちはこのような法を軽視する魔法使い(Wizard)たちの犠牲となった。言葉を間違ってはいない。魔法使い(Wizard)であって、魔術師(Sorcerer)ではないのだ。魔法の担い手としての名称すら、この若い新参者に対しては勿体無いとすら思える。私は無責任に魔法を見せびらかすこの乱暴者についての噂を吹き払う真実を知る魔術氏族(Mage Clan)のYshari Sanctumの者と接触を持った。

 この魔法使い(Wizard)は、世界でも最高の魔術師の指導の下に人格形成を行うためにここへと送られた。彼女は最初から無礼であり、協調性の無い生徒であることから、出生地であるXiansai島で私たちの知る魔術師の礼儀を教えられなかったようにすら思われた。元来彼女はZann Esu魔術氏族の指導下にあったが、結局の所強固な規律が彼女の奔放な性格を変えるであろうという願望の元に、Vizjerei氏族へと渡されることとなった。だが、威厳有るVizjereiの指導者たちですら、彼女を真っ当にすることが出来なかった。彼女自身に降りかかったことや周りの忠告にも耳を貸さず、彼女は絶えず危険な禁じられた魔術を探求しては捕らえられていた。

 Sanctumの地下に悪名高きBitter Depthsへと彼女が足を踏み入れたという物語は全く真実ではなく、実際には彼女は、保安上の理由から危険な魔術が収容されているAncient Repositoriesで発見されたに過ぎない。偉大なるVizjerei MageのValthekに発見され説明を要求され詰問されると、行った行為に対する釈明をするのではなく、逆に恥知らずにも彼を攻撃した。私たちの都市の若者の反抗心によってこの戦いの物語は誇張され、神話的な物語にまで広がっていた。しかしながら実際の所、彼女は名誉ある一対一の戦いでは、Yshariの最も強力な魔法の担い手では無いのだ。Valthekの意識が戻らないことから、この時の実際の詳細はわからない。だが、信頼できる調査によると、彼女は偉大なる魔術師を倒すために詐欺的な行為と虚偽とに頼ったと云われる。加えて、大規模な破壊の被害が、主としてこの新参の方使いではなくValthekの魔術によるものであった事も確認された。問題の彼女が何処に居るのかは現在誰も知らない……何故なら、彼女はこの後直ぐに都市から逃げ出したのだ。

 これは私の最終的な畏怖を呼び起こすようなものではないが、しかしこの様な状況が憂慮すべき事態であると考えている。何故なら、世界をさ迷い理解できぬ強力な魔法を求める、若く無謀で反抗的な魔法使いが多く居るのだ。他の者や私などよりも更に賢明な者たちは、魔法のある特定の領域が余りに危険なものであると考え、行使を禁じた。にも関わらず、このような反抗的な魔法使いたちが求めるものこそがまさにそれなのだ。想像したまえ、頑固な十九歳の成年が、何かの拍子にどのような考えを持つに至るかを。この自称魔法使いがCaldeumに戻らぬことが私の希望であるのだ。

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