●オムニッククライシス(Omnic Crisis)
オムニッククライシス(Omnic Crisis)の起源は、多国籍企業のオムニカコーポレーション(Omnica Corporation)と、世界各地に建設された自立拡張する全自動のロボット工場オムニアム(Omnium)であった。オムニカコーポレーションは、この自立したロボット製造工場オムニウムが世界にとって革命的な黄金時代を築くだろうと未来を語り、それに伴って多くの国にオムニウムが建設された。
オムニックらによる労働力の提供と、戦闘用オートマトン・バスティオン部隊による治安維持軍が組織され、オムニカコーポレーションのうたう理想は実現するかに思われた。
しかし、オムニウムの誤作動によるトラブルや、アナリストたちによる経済の成長予測とオムニックコーポレーションが打ち出した予測との乖離の大きさなどによって、オムニカコーポレーションに大々的な監査が入った。結果として、事実を伴わない詐欺的な手口であった事が証明された。
オムニカコーポレーションの閉鎖に伴い、オムニウムもまた停止された。しかし、オムニウムはこれらの停止措置に対抗した。解体された筈のオムニウムは自身のバックアップから復元し、工場を再起動した。そして、人類全てに対する軍事行動を開始した。オムニウムの生産能力は軍事用ロボットの生産に使用され、以前から存在したタイタンウォーカーのような技術も取り入れて更なる戦争兵器を産み出した。
オムニックが人類に対する戦争を開始すると、全世界の人々が自らの敵が予想だにしなかった者たちである事に動揺した。
オムニックによる攻撃は、インド、エジプト、メキシコ、オーストラリア、ロシアを含む全世界の主要都市に対して行われた。これらの反乱は人々に不安を抱かせた。何故なら、それまで平和維持目的で作動していたバスティオン戦闘部隊がオムニック軍の中核を担っていたためであった。
世界の国々は、オムニック軍に自国の軍と技術力を用いて対抗した。だけれども、強力な軍を持つ国ですら一国としてオムニウムを停止させる事ができなかった。かつて喜ばれたオムニックの順応性、適応性は、今の人類にとって戦術的な悪夢のひとつとなっていた。
なによりも悪い事に、オムニックからはなにひとつとして具体的な要求が無かった。オムニックには、侵略に対するイデオロギーも、理由すらも無かった。オムニックはただ人類を攻撃し、そして何故攻撃するのか、攻撃されるのか、その理由を誰一人として知らなかった。
やがて、唯一かろうじてオムニウムを停止させたロシアを除いて、国家単位では自国の保全すらままならない状況になりつつあった。オムニックの脅威は世界を席巻し、人類の版図がやがては失われるであろう事が予見できる事態にまで達していた。とはいえ、小規模ながらオムニックに勝利を収める事ができた幾人かの軍人や戦略家がいた。
アメリカでは、"強化兵計画"の被験者であるジャック・モリソンやガブリエル・レイエスらが軍を指揮してオムニックに対して抗った。ドイツでは、特殊部隊『クルセイダー』を率いるバルデリッヒ・フォン・アルダーが戦闘用オートマトン部隊の侵攻に対したものの、火力と物量で劣り、最終的に全滅した。しかしながら、これによって稼がれた時間は、オムニッククライシス終焉までドイツへの侵攻を止めるのに充分なものとなった。
国連はこれらの少数の異才に注目し、オムニックに対して決定的な一撃を加える事を目的とした小規模で小回りが利くチームの編成を開始した。これらの異才を集めた国際組織はオーバーウォッチ(Overwatch)と命名された。オーバーウォッチはオムニックに対して独自の戦闘を開始した。
オーバーウォッチは超極秘作戦としてオムニックたちの指揮統制プロトコルに目標を定めた。多大な犠牲と英雄的行為の果ての一連の活動によって、オーバーウォッチはオムニック軍の指揮系統全ての破壊に成功した。これにより、オムニック軍の指揮プロトコルは不活性化、隔離され、脅威は去った。
オムニッククライシスは終焉を迎え、オムニック側で活動したバスティオン戦闘部隊は一部の例外を除いて全て破棄された。
オムニッククライシス終焉より一世代を経るくらいの年月が経った。人々同士の対立が世界の各地で起こり、金融危機が戦争の余波として残された。オムニックと人々の間の緊張は各地にはびこっている。
例えばオーストラリアはオムニッククライシスで各地が壊滅的な状況となった。オムニッククライシス後、政府の高級官僚たちはオムニックたちとの共存と共栄を望み、オムニウム周辺区域への永住を認めた。これによって、元来その周辺に住んでいた人々がオムニックに追い出されて住居を奪われる結果となった。住民たちは反オムニックを掲げ、オムニックたちを殺し始めた。最終的に、オムニウムの核融合炉を破壊し、それを中心とした半径数キロメートルが人が住めない土地となった。しかし、若干名が生き残った。かれらはジャンカー(Junker)と自らを呼び、この不毛の地の廃墟の影に隠れ冷酷で陰惨な組織的活動を始めた。
ドラド市は対立の終わりを記念し、毎年のように祝典を開催した。
英国キングスロウでは、オムニックと人との関係を説いたオムニック僧侶テカルサ・モンデッタ(Tekhartha Mondatta)が暗殺された。これは、犯罪組織タロンによるものとされる。
戦中唯一オムニウムを停止させたロシアは、現在新たなオムニックとの戦いの戦場になっている。かつて停止させたオムニウムから出現していたオムニックよりも更に新たなオムニックたちが出現し、国はボルスカヤインダストリーの生産能力をフル回転させ、民衆にオムニックに対して団結するようプロパガンダを行っている。政府はオーバーウォッチに対して懐疑の目を向けており、博物館において行われた無許可の元オーバーウォッチの活動に対して非難の声明を出した。
ヌンバニは例外的にオムニックと人々とが手を取り合い平和を謳歌している。
世界の天秤がどちらに傾くのか、誰にもわからない。