■Silithus Preview
 地面に伏したthe Twilight's Hammerの信者の死体を足元にしたまま、私はこの争乱の物音で他の者が来ないことを確認するまで警戒の姿勢を解く事はなかった。砂漠に来て数週間が経ち、様々な昆虫の羽音を無視することができるようになっていたが、それでもまだ充分に私を苛つかせ続けていた。私は水晶柱の影からゆっくりと視線を走らせ、丘の下に広がるベースキャンプを鋭く眺めた。他の者に気付かれた様子はなかった。the Twilight's Hammerの哨戒部隊は、浮遊する岩の周囲に集まり謎の儀式を行なうthe Stonecallersを守るため、砂丘に敵対するものたちの痕跡がわずかでもないかと目を走らせていた。

 少なくとも、この短時間に行われた戦闘を耳にした者はいないようだった。身を隠す助けとなった水晶柱によりかかると、水晶柱の温かみがクローク越しに感じられた。私は安堵の息を吐いた。今回の遠征における全ては、その始まりからして妙なものであったし、先程の戦闘は私の神経を不安に浸していた。

 私は膝をつき、 Orcの懐に手を伸ばしながら最近の出来事を思い出していた。幾週間も前のこと、the Cenarion Circleは私にSilithusへと赴くよう求めた。忠実なDruidたる私は、呼びかけに応えてKalimdorの南東の砂漠を信頼できるKodo に騎乗して越えた。私は経験豊かな冒険者であり、この砂漠で起こることならば問題なく処理するだけの能力を備えている。

 Druidたちがゆっくりと大陸を侵略している異生物Silithidの存在について関心を持っているのは公然のことであり、私もそれを知っていた。Silithidは自然ならざるものであり、Azerothに荒廃をもたらすもののようであった。もしも私がSilithidの存在の根源についてなにか行うことが出来るとするなら、私はそれを行うであろう──そしてそうであるが故に、今私は埃舞う乾燥したこの地へと来ている。

 けれども、今やらねばならないことは、Twilight's Hammerに対することだった。私はOrcの祭司服を眺めた。それは、BlackfathonやBlackrock Depthの牢獄で出会った信者たちとよく似た暗い紫色をしていた。狂信者の目から熱狂的な光が既に消えてはいたが、その表情は狂気に満ちた目的に命を捧げる決意に溢れていた。私は内心うそ寒さを感じた。私が聞いた彼らの目的の半分でも真実であったとしたら、彼らの目的を止める事は以前よりも更に重要性を増していた。

 私が任務のことを聞いた時、私はすぐさま逃げようとすら考えた。計画は莫迦げたもので、愚かなこの計画を捨てて Mulgoreにすぐさま飛び帰りたかった。けれども、そうすることは私が信頼を捧げた規律に対して背を向けることであり、そのことを何よりも私自身が許さないであろう。私はOrcの頭に巻かれたフードの結び目を解き、次いでマントとローブを脱がせた。私は胸当てを外し、息を止めると信者のローブを着込んだ。信者はOrcとしては大柄ではあったが、私のようなMulgore出身のDruidに合うサイズではなかった。マントを着け、角の周りにフードを結びつけてかぶると自然悪態が口を突いた。

「莫迦げている。死にに行くようなものだ」

 私は息を吐くと呟いた。

 慎重に水晶柱の陰から周囲を覗いた。変装はしたものの、容易に大きな角がある見知らぬ者として私を認識することができるだろう。可能ならば、私は Twilight's Hammerの哨戒部隊を避けなくてはならない。私は目を閉じると意識を集中し、しなやかで角ある獣の姿を思い浮かべた。私の体が変化し、新たな姿──隠密行動を専門とする姿態を形作った。

 私は機会を待ち、水晶柱から忍び出た。哨戒部隊の背後を越え、注意深く信者たちの迷路を突き進んだ。私の目的とする場所はTwilight's Hammerのキャンプ奥深くにあり、ひとつの失敗が酷い苦境をもたらすことになるだろう。慎重の上に慎重を期して、彼らが見張っている奇妙な青い炎へと忍び寄った。ついに私は台座──そして目的とするものを目にすることができた。私は離れているTwilight's Hammerの者たちが、私の変装を見破れないくらい遠くに居るであろうことを祈った。私は素早く変身を解くと変装した姿へと戻った。

 小型のオベリスクが台座の上に浮かんでいた。それ以外にはなにもなかった。手間取れば発見され死を招く事になるだろう。私は目を閉じ、手をthe Wind Stoneの上へと置いた。

 私の脳裏を焦熱の炎が突き抜けた……。